2011年3月26日土曜日

013/ 379 ご冗談でしょう、ファインマンさん

10点満点で、9点。

ノーベル賞学者、リチャード・ファインマンの自伝。正確には自伝ではなく、本人が語った話を他の人が書き起こしたらしいが、ファインマンさんの活躍が活き活きと描かれている。

天才とはこういう人を言うのだろう。数学、物理に顕著な才能を示し、マンハッタン計画にも参画。ノーベル賞物理学者たちを向こうに回しても一歩も引かずに議論を重ね、自身もノーベル賞受賞。絵を描き始めたら売って欲しいという人が続出し、ドラムを叩き始めたらプロとして演奏依頼が来る。

興味のあることには真剣に、しかも楽しみながら取り組んでいる。そこに義務感はなく、ただひたすら楽しんでいる。

ロスアラモスでは金庫破りの名人と言われ、古代インカの文字を解読し、とにかく興味を持ったこと全て一流になっている。その根底には、基本を徹底的に理解するというスタンスが流れている。学生が数学の基礎、物理の基礎をちゃんと理解していないことに対する嘆きが、それを顕著に表している。

ファインマンさんの科学に関するスタンスは、下巻巻末の「カーゴ・カルト・サイエンス」(大学卒業式での式辞)に凝縮されている。事実に正直であれ、事実を隠すな、事実から目を背けるな、と。ミリカンの油滴実験で、計算値に間違いがあるのに、誰もがミリカンの実験を尊重しすぎるあまりに自分の実験結果から目を背け続けた話を例に挙げ、科学者としてのスタンスをきっぱりと述べている。

理工学の分野に生きる者であれば、常に意識しなくてはならないこと。理工学の分野と縁遠い人も、知っているべきこと。重要なことだが、今現在でも、この認識が徹底されているかというと疑問だろう。

読み物として純粋に面白いので、文系の人にもぜひ読んで欲しい。数学、物理学の話題が多いから、一部読みづらいところがあるかも知れないが、それを補ってあまりある面白さ。


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2011年3月25日金曜日

012 / 378 泣き虫

10点満点で、6点。

ヒクソンの本を読んだので、高田の本も読んでみなくては、と思い立って。著者が高田からインタビューした内容を元に書き起こした本なので、自伝に類する物と思っていいだろう。

幼少の折プロレスラーにあこがれを持ち始めた頃から、新日本入団、UWF、新日本出戻り、第二次UWF、UWFインター、キングダム、ヒクソン戦、PRIDEと、高田の経歴をなぞりながら、主要な一戦は押さえている。

体力に自信を持って入団した新日本プロレスで、あっという間に鼻っ柱を折られてから、藤原や前田にもまれる日々。乗り越えてきた者だから語れるのだろう、凄まじい練習量には圧倒される。
(余談だが、「1・2の三四郎」でのプロレス入門近辺のシーンは、かなりこの空気を見せている)

周囲に翻弄される形でUWFから第二次UWFへと渡り歩き、前田の「解散する」発言で御輿に担ぎ上げられて。UWFインターでは社長兼エースとして、社長業に押しつぶされて選手として価値が暴落していく様が、よく伝わってくる。高田の苦悩を理解しようとしない田村、新日本プロレスの交渉術、選挙・・・
高田に同情したくなるが、読了後、終始「俺は悪くないのに、俺はやりたくなかったのに」という意識が見え隠れしていたことに気付き、少し冷める。もっと前を向いて語れよ、自分の覚悟に責任を持てよ、と。

ヒクソンとの初戦、戦う前から呑まれていたことも赤裸々に語られている。実際、試合では何もできずに一方的に、スパーリングでもやっているかのように決められていた。
そして一年後、今度は気力体力とも充実していたと語る再戦。確かに動きは悪くないが、フィニッシュまでの流れも時間も一年前とほぼ同じ形で、腕ひしぎ逆十時でタップアウト。俺はこの試合を東京ドームに見に行き、「去年と同じじゃないか! オマエ一年何やってたんだよ!」とヤジを飛ばした記憶がある。思えばこの頃から、高田の代名詞が「光速タップの高田」なんて言われるようになったんだか。

プロレスラーは本当に強いんだ、と主張しつつ、アルティメット等で勝てないのは「リアルファイトとプロレスは違うから・・・」と語る。言いたいことはわかるが、それってプロレスファンにしか通じないよなあ。
桜庭はそのギャップを埋めてくれたが、桜庭以外は誰も埋めていないのも事実。
(ダン・スバーンも結構いいとこ見せてるが、プロレスラーとしてのキャリアはやや疑問)

弁解はいいよ。もっと客観的に書いて欲しいな。


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011 / 377 ヒクソン・グレイシー 無敗の法則

10点満点で、9点。

400戦無敗の男、ヒクソン・グレイシー。
一般的にはあまり知名度がないだろうから、どういう人物かと書いておくと。

1993年、アメリカでUFC(Ultimate Fighting Championship)が開催された。噛みつきと目つぶし以外に反則なし、時間無制限でオクタゴン(8角形のフェンスで囲まれたリング)の中で戦い、誰が一番強いかを決めるイベント。プロレスラー、空手家、元力士などが参加する中、無傷で優勝を飾ったのは小柄な柔術家、ホイス・グレイシーだった。ホイスは翌年のUFCでも優勝。そして語った言葉「兄のヒクソンは、私の10倍強い」

ヒクソンは、1994年(だったかな)からは日本でも戦っている。佐山聡(初代タイガーマスク、当時は修斗主催)の招待に応じて、VALE TUDO JAPAN に参戦。こちらはラウンド制、プロレス風リングという違いはあるものの、圧勝を飾る。翌年のVALE TUDO JAPANにも参戦、山本宜久にロープを掴むという手段を執られて苦戦するものの、木村浩一郎、中井裕樹と下し、連覇。

その後UWFインターナショナルのトップだった高田延彦とPRIDE.1で対戦、圧勝。前田日明が対戦に向けて交渉中と明かすも、翌年高田と再戦、全く同じ勝ち方で圧勝。2000年にはパンクラスの船木誠勝とコロシアム2000で対戦、チョークスリーパーで締め落として勝利。その後試合はしていない。

400戦無敗というキャッチコピーは佐山が付けたらしいが、「ストリートファイトを含めてそれくらいやった」という話を膨らませたらしい。どういうわけか本書では460戦無敗となっているが、どこでそんなに試合を重ねたのかはわからない。しかし、公式に確認できる、「ヒクソンに勝った」という男がいないのも事実。実際はバーリ・トゥード(「何でもあり」という意味)以外の試合ではいくらか負けがあるらしいし、本人も別段隠しているわけではないらしいが、誰がヒクソンに勝ったのかはよくわからない。

さて、本書。
個人的には、ヒクソンという格闘家(人物)は大嫌いだった。確かに出場した試合には全て勝っているが、何せ出ない。高田がファイトマネーをつり上げたせいらしいが、VALE TUDO JAPANのワンデイトーナメント以外は、わずか3戦しかやっていない。そのくせ、「負ける可能性がある相手はいない」とか、「私は誰とでも戦う」とか、期待を抱かせる発言多数。戦うとなればルールでゴネて、「オマエ普段言ってることと違うじゃないか」とずっと思っていた。

しかし、本書を読んで、少し考え直した。ヒクソンという人物は、やはり本物なのかも知れない。
本書は格闘技に関する話題の本かと思っていたが、違う。哲学書だ。
本書の見出しから、気になるところをいくらか列挙する。

・教育とは、何かに打ち込める人を育てること
・見えているものが真実とは限らない
・人生に「幸運」はない、あるのは「戦略」だけ
・何か欲しいものがあるなら、必要な犠牲を払う
・勝つために負けを受け入れる
・明日なんて来ないつもりで生きる
・自分を何より大切にする”現代版サムライ”
・「何も持たない」という幸せ
・トラブルの元は大きくなる前に摘んでおく
・現実と向き合わない人間にチャンスはない
・自分の人生を変えられるのは自分だけ
・「もう充分」と満足すればそこで終わり
・イメージして、宣言して、実行する

見出しで人をあおることなく、本文の内容は確かにこういったものだ。

「悪童」ハイアン、「ハイアンなんてかわいいもんだった」と言われるヘンゾ、タップした相手を締め落とすホイス、落ちた山本を蹴り剥がしたヒクソン、「ノールールがいい」と言いながら毎回ゴネる陣営・・・正直なところ、グレイシー柔術に対するイメージは「強いが、少なくとも人間教育はできない技術」というものだった。
しかし、本当は違うのかも知れない。あるいは、ヒクソンのレベルにまで到達したからこそ、本書のような考え方を持つに至ったのか。

グレイシー柔術に対するイメージが、かなり変わった。

ちなみに、ヒクソンの実績を否定するわけではないが、ヒクソンと戦った男たちについて。本当のトップクラスはいなかったことについて書き加えておく。

山本宜久は、当時リングスで売り出し中の若手。その後エースに上り詰めるが、リングス5周年記念大会(だったっけ?)でヒカルド・モラエスに46秒でノックアウトされてから、鳴かず飛ばず。
高田延彦は、新日本プロレスで武藤敬司に足四の字固めでギブアップ負けを喫し、価値が暴落していた(後にシナリオがあったことを明らかにしている)ヒクソンに負けたあと、猪木に「よりによって一番弱い奴が出て行ってしまった」と言われていたが、少なくないファンがそう感じていたと思う。
船木誠勝は、既にパンクラスのエースを近藤有己に奪われていたし、直前にはエベンゼール・フォンテス・ブラガに血だるまにされている。
その他、西良典、木村浩一郎も、別にどこかのエースでもプロですばらしい戦績を残している選手でもない。

一般的には、最もヒクソンに勝てる可能性があったのは船木と言われているが、俺は中井裕樹だと思っている。
噛みつき、目つぶし、金的、肘打ち、頭突きくらいしか反則がないルールで、ジェラルド・ゴルドーに反則の目つぶしを受けて片目を失明しながらも勝ち上がってきた中井が、ヒクソンと戦った中では一番強かったと思う。中井に、万全の状態でヒクソンと戦わせてやりたかった。


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2011年3月8日火曜日

010 / 376 感動を与えて逝った12人の物語

10点満点で、7点。

今のところ死ぬ予定はないが、どんなに先でも100年後には死んでいるだろう。
どうせ死ぬなら、感動を与えて死んでみたい。うまく死ねなかったから死に直し、ってわけには逝かないし。

何かに人生を捧げてきた人、達観した人、自分の人生を振り返って反省しきった人。本書には、その中でも著者になにがしかの感動を与えた、11人+αのエピソードが語られている。なるほどと確かに感動させる人もいるが、それはどうかと思う人も。

よく思うのだが、普段性格の悪さをさらけ出しておきながら、最後にいいところを見せただけで「本当はいい人だったんだ」と言われるの、何とかならんもんだろうか。最後にちょっとだけいいことしたって、普段がろくなことしてないなら、そいつはろくな奴じゃない。反対に、最後に少しくらい悪いことをしていたって、普段いい奴なら、そいつは基本的にはいい奴なんだ。ちょっと考えればわかるはずなのに、印象だけで語るの、いい加減何とかならないかな。

本書には、そういうエピソードを抱えたジジイが出てくる。医者の言うことを聞かずさんざんわがままを言い散らかして、最後におとなしくなったら「本当はいい人だった」で締めくくられている。バカじゃねえか。


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2011年3月1日火曜日

009 / 375 死ぬときに後悔すること25

10点満点で、6点。

今のところ死ぬ予定はないのだが、まぁ遅めに見積もっても60年後には死んでいるだろう。
そのときに後悔しないために、人はどういうことに後悔するのか、読んでみた。

健康に気を配らなかった、行きたいところに行かなかった、言うべきことを言わなかったというのはまぁ想像通り。面白いというか興味深かったのは、宗教を持たなかったことに後悔する人っているんだね。基本的に無宗教だから、「宗教なんてのは、その気にさえなればいつでも信じることができる」と思っているのだが、違うのかな。

宗派にも依るだろうけれど、まさか「10年以上信仰していない人は救済しない」なんて謳ってる宗教はあまりないだろうし、あってもメジャーではないだろうし。それこそ、そんなことで後悔するくらいだったら、死の直前でも教誨師でも何でも呼んで、信じればいいのに。

ま、死ぬときに後悔しないために、いくらかでも行動を改めることはできそう。
豊かな人生を送るためには、早めに読んだ方がいいかな。

しかし、本書の著者って、俺より年下なんだな。俺ももうそんな歳か。


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